私は以前から、ビットコインはいずれ価値がなくなる方向に向かう、と言い続けてきました。6月には「Claude Mythosがビットコインのブロックチェーンを崩す日」という記事も書いています。
あれから4か月がたちました。AIの進み方は、私が思っていた以上に速いと感じています。
そこで今回は、2026年に入ってから実際に何が起きたのかを、発表や報道をもとに整理しました。そのうえで、反対の見方も載せて、それでも私がそう考える理由を書きます。
先に、大事なことを書いておきます。
2026年10月の時点で、ビットコインの暗号が、AIや量子コンピューターによって破られたという事実はありません。この記事の「いずれ価値がなくなる」は、私の見方です。
まず、ビットコインの何が「破られる」のか
ビットコインの安全は、大きく2つの仕組みに支えられています。
・ハッシュ関数(SHA-256)。取引の記録をつなぎ、採掘(マイニング)に使われる
・電子署名。「このコインを送ってよいのは持ち主だけ」を確かめる仕組み。ビットコインでは、ECDSAとSchnorrという2つの方式が使われていて、どちらも楕円曲線暗号を土台にしている
専門家の多くが「弱いのはここ」と見ているのは、2つ目の署名です。将来、十分な力を持つ量子コンピューターなどで楕円曲線暗号の安全が崩れれば、表に出ている情報(公開鍵)から、持ち主しか知らないはずの秘密の鍵を計算されるおそれがあります。そうなると、他人のコインを勝手に送れてしまいます。
ただし、すべてのコインで公開鍵が最初から見えているわけではありません。アドレスの種類や使い方によって危なさの度合いは違い、置いてある間は見えていなくても、送るときに公開鍵が見えるようになる場合があります。
1つ目のハッシュ関数は、量子コンピューターに対しても比較的強いとされています。

2026年に起きたこと
1. AIが、ソフトの欠陥を見つける力は急に伸びている
Anthropicは2026年4月、一般には公開しないAI「Claude Mythos Preview」が、主要なOSとブラウザのすべてで、まだ知られていなかった欠陥を数千件見つけたと発表しました。5月の中間報告では、参加している約50の組織が、深刻な欠陥を1万件以上見つけたとしています。
ビットコインの周りでも動きがありました。9月には、16人の開発者がAIを使ってビットコイン関連の390のプロジェクトを一斉に点検し、約5,000件の指摘を出したと報じられています。そのうち、ライトニング(ビットコインの送金を速くする仕組み)の実装の一つであるCore Lightningでは、AIを使った調べをきっかけに本物の欠陥が見つかり、急いで直されたと報じられています。
ただし、これはソフトの欠陥の話です。ビットコインの署名を支える数学が破られた、という意味ではありません。
2. 「AIが暗号の数学そのものを崩すのでは」という声が出た
10月6日、OpenAIが、社内のAIによる数学の研究成果を大量に公開しました。
これを受けて、暗号の研究で知られるジョンズ・ホプキンス大学のマシュー・グリーン氏が、Xに、公開鍵暗号を失うかもしれない、という趣旨の投稿をしました。ただし同氏は、そのあとの投稿で、差し迫った暗号解読の成果は知らないと補足しています。心配しているのは、これまで十分に強いとされてきた暗号が、思っていたより弱かったと分かるような可能性だ、という説明です。
イーサリアムの研究者ジャスティン・ドレイク氏は、最悪の場合として、量子コンピューターより先に、数か月という短い期間で署名の暗号の安全が崩れる可能性も考えて備えておくのは合理的だ、という趣旨の見方を示しました。これは「数か月以内に破られる」という予測や、破られた証拠が見つかったという発表ではありません。
一方で、Coinbaseの暗号部門のトップは「楕円曲線暗号の数学的な前提が弱まった証拠はまったくない」、ハードウェアウォレットのTrezorの担当者は「AIでも他の手段でも、信頼できる公表済みの進展はない」と反論しています。
つまり今は、AIがビットコインの署名を支える数学を破ったという証拠はありません。専門家の意見が分かれているのは、これからどのくらいの危険を考えて、いつから備えるか、という点です。
3. 量子コンピューターで破るのに必要な規模の見積もりが、下がり続けている
Googleは2026年3月、ビットコインと同じ大きさ(256ビット)の楕円曲線暗号を、これまでの見積もりより少ない規模の量子コンピューターで解ける可能性を示しました。一定の性能を持つ方式(超電導)を前提にすると、量子ビット(量子コンピューターの計算の単位)は物理50万個未満、計算は数分という試算です。必要な量子ビットの数は、これまでの見積もりの約20分の1とされています。
9月には、量子コンピューターの会社IonQが、自社の別の方式なら物理約1万9,400個、計算に約26日という試算を出しました。こちらは会社自身の試算で、外からは確かめられない形です。方式も前提も違うので、量子ビットの数だけで、どちらが実現に近いかは比べられません。
どちらも机上の試算です。こうした試算が前提にしている、大きくて誤りを自分で直せる量子コンピューターは、まだありません。Googleが2024年12月に発表したチップ「Willow」は105個の物理量子ビットで、試算の数字とそのまま比べられるものではありません。
4. 2026年の大きな流出は、ビットコインの暗号が破られたのではない
2026年も、大きな流出が続きました。
・7月30日から、ハードウェアウォレットのColdcardで、乱数の作り方の欠陥を突かれる被害が出た。調査会社TRM Labsの8月5日の報告によると、Galaxy Researchの集計で約1,816BTC(約1.16億ドル)が抜き取られた
・9月、ビットコインの周りで動く別の仕組み(Liquid Network)で、ソフトの欠陥から約4,000BTCが抜き取られた(翌日に約3,400BTCが返された)
・9月24日、取引所のBitgetで、約3.87億ドル分の暗号資産が盗まれた(Chainalysisは北朝鮮系の犯行としている)
どれも、ビットコインの署名を支える暗号の数学そのものが破られたと確認された事件ではありません。Coldcardでは乱数の作り方の欠陥、Liquid Networkではソフトの欠陥が報告されています。Bitgetは、私が見た発表からは侵入の経路までは分かりませんでした。これらの事件で、AIが原因だと確認されたものもありません。
一方で、AIと詐欺の結びつきは、すでに数字に出ています。ブロックチェーン分析の会社Chainalysisによると、2025年の暗号資産の詐欺のうち、AIのサービスを売る業者との取引がブロックチェーン上で確認できた詐欺の組織は、1つあたり平均約320万ドルを受け取っていました。取引が確認できなかった組織の約4.5倍です。ただし、AIを使ったことが直接確かめられたとは限らず、AIがこの差を生んだと証明されたわけでもありません。
5. ビットコインの側の対策は、まだ提案の段階
ビットコインの開発者の間でも、量子コンピューターへの備えは議論されています。
BIP-360という提案は、公開鍵が長い間見えたままになることによる危険を減らす、新しい仕組みです。ただし、これだけで量子コンピューターによるすべての攻撃を防げるわけではありません。
BIP-361という別の提案も議論されています。量子に弱い形への新しい送金を段階的に止め、そのあと古い署名での送金にも制限をかけていく内容です。古い署名のコインを動かすときは、量子に備えた救いの手順を使う案が示されていますが、その方法ですべての持ち主が安全に移せると決まったわけではありません。鍵をなくした人などのコインが動かせなくなる問題もあり、「持ち主の財産を取り上げるのと同じだ」という強い反発も出ています。
どちらも下書きの段階で、本番のネットワークでは有効になっていません。

反対の見方
公平のために、「ビットコインは大丈夫だ」という側の見方も載せます。
・量子コンピューターに強い暗号の標準は、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が2024年8月に出している(ただし、標準があることと、それをビットコインに安全に入れられることは別の話)
・Googleは、自社の暗号を量子に強いものへ2029年までに移す目標を出している。移り方の手本はある
・ビットコインは、これまでも全員が同時に入れ替えなくてよい形(ソフトフォーク)で、仕組みを足してきた
・ビットコインの開発に長く関わってきたBlockstreamのアダム・バック氏は、量子の脅威は20〜40年先との見方を示しつつ、準備は今から始めるべきだと話している
・資産運用会社のCoinSharesは、盗まれて市場を大きく乱しうるほどのコインは、約10,200BTCにとどまると見ている
・量子コンピューターが本当に来れば、銀行やネットの通信の暗号も同じ問題を抱える。ビットコインだけの話ではない
どれも、うなずける点があります。支持する人たちは、危険がはっきりする前に対策を進める時間があり、技術的にも変えられると考えています。実際に、対策の提案は進んでいます。
私が疑っているのは、対策の技術があるかどうかではありません。それを世界中の利用者が、間に合うように使い始められるかどうかです。

それでも私が、いずれ価値がなくなる方向に向かうと考える理由
ここからは、私の意見です。
1. 直すための合意が遅い
ビットコインには、仕組みの変更を一人で決めて、全員に守らせられる管理者がいません。変更を広く使ってもらうには、開発者だけでなく、利用者や採掘をする人、取引所などの事業者の支持と対応が要ります。ビットコインの開発に関わる研究機関Chaincode Labsの報告では、量子への最適な対策が整うまでに約7年かかると見積もられています。過去の大きな変更(SegWit、Taproot)にも7年以上かかったことが、例に挙げられています。AIの進み方は、それよりずっと速いと私は見ています。
2. 動かないコインをどうするか、答えがない
量子に特に弱いとされる最初期の形のコインだけでも、60万〜110万BTCあると見積もられています。持ち主が亡くなった、鍵をなくした、といったコインは、持ち主が自分で新しい形に移すことができません。古い署名での送金を止めれば、正しい持ち主でも動かせなくなるおそれがあります。止めなければ、将来、盗まれる危険が残ります。どちらを選んでも、信頼に傷がつくと私は考えています。
3. 自動では守られない
量子に強い新しい仕組みが入っても、今の形で保管されているコインが、自動ですべて守られるとは限りません。対策の中身によっては、持ち主や取引所などが、新しい形に移す手間をかける必要が出てきます。すべての人がそれをやり切るとは、私には思えません。
4. 安全への信頼が、価値の土台になっている
ビットコインそのものは、株の配当や不動産の家賃のような収益を生みません。支持する人たちは、発行の上限があること、国をまたいで送れること、特定の管理者に頼らない仕組みであることなどに価値があると考えています。私は、そうした価値も、仕組みの安全への信頼が大きく揺らげば、支えきれなくなると考えています。実際に破られなくても、「破られるかもしれない」という見方が広がるだけで、その土台は揺らぐはずです。
5. AIは、周りのソフトの欠陥も見つけていく
今年の流出がそうだったように、狙われるのは暗号そのものより、ウォレットや取引所や周りの仕組みです。AIが欠陥を見つける力は、守る側にも攻める側にも使えます。
株や不動産と違って、ビットコインそのものは何も生み出さない、という私の考えは、以前の記事でも書きました。そこに、AIの進み方という新しい心配が加わった、というのが今の私の見方です。
価格のこと
ビットコインの価格は、2026年10月22日の時点で1BTCあたり約8.2万ドルで、1年前より約24%低い水準です。
ただし、この日の値下がりは、原油の値上がりや物価の心配と結びつけて報じられていて、AIや量子コンピューターが理由だとは報じられていません。価格の動きを、私の見方の裏づけとして使うつもりはありません。
持っている人、これから考えている人へ
この記事は、ビットコインを売ってほしい、買わないでほしい、と勧めるものではありません。
金融庁は、暗号資産について次のことを呼びかけています。
・暗号資産は、法律で決められたお金(日本円など)ではない
・価格が大きく動くことがある
・取引するなら、登録された交換業者かどうかを確かめる
・説明をよく聞き、理解してから取引する
・詐欺や悪質な商法に気をつける
そのうえで、もし持っているなら、最低限これだけは気をつけてください。
・取引所やウォレットのログインには、2段階認証を入れる
・ウォレットのソフトは最新にしておく。ただし、過去に作った鍵そのものに問題があった場合は、更新だけでは直らないこともあるので、作った会社の公式の安全情報を確かめる
・「AIで必ず増える」「量子に強い新しいコインに今すぐ移せ」といった誘いには乗らない。不安をあおって、お金を動かさせる手口です
AIの進み方は、私たちの予想を何度も超えてきました。だからこそ、どんな資産でも「絶対に安全」と思い込まないことが大事だと、私は考えています。
※この記事は、私の見方と、公開されている情報をもとに書いたものです。特定の暗号資産の売買を勧めるものではありません。投資の判断は、ご自身でお願いします。
参考
・Anthropic「Project Glasswing」(2026年4月7日)
・Anthropic「Project Glasswing」中間報告(2026年5月22日)
・CoinDesk(2026年9月8日)
・Cointelegraph Magazine(2026年10月14日)
・Google Research(2026年3月31日)
・The Quantum Insider(2026年9月8日)
・TRM Labs(2026年8月5日)
・TRM Labs(2026年9月8日)
・Chainalysis(2026年1月13日)
・Chainalysis(Bitgetの件)
・BIP-360
・BIP-361
・NIST(2024年8月13日)
・Galaxy Research(2026年3月19日)
・金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」
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Claude Mythosがビットコインのブロックチェーンを崩す日
生成AIでアプリ開発|未経験の個人が約1ヶ月でiOSアプリ23本を公開した全記録2015年から続くコミュニティ「コアメンバー」の無料相談です。いまの状況を伺い、取り組みの候補をお返事します。
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