「ワンルームマンションは節税になります」
「ワンルームマンションは生命保険代わりになります」
販売業者は今もこの二つの言葉を畳み掛けて契約を結ばせています。新築や築浅の物件をフルローン、つまり自己資金ゼロで全額借入をして買わせる売り方は、昔から変わっていません。
私は大阪府知事の認可を受けた不動産会社を20年経営しています。その気になれば私も新築の区分ワンルームマンションを売ることができます。それでも売りません。買った人が損をするからです。
この記事では、「ワンルームマンション投資は節税になる」という説明がなぜ成り立たないのかを、税金の仕組みと実際の数字で書きます。結論から言えば、節税ならもっと良い方法がいくらでもありますし、生命保険と考えても非効率で、そもそもの支払額が高すぎます。
結論|節税目的でワンルームマンションを買う必要は全くない
iDeCo(個人型確定拠出年金、自分で掛金を出して老後資金を積み立てる制度)が登場したおかげで、サラリーマンでも掛金の全額を所得から差し引けるようになりました。この記事を最初に書いた時点の制度では、企業年金のない会社員で年間27万6,000円が所得から控除できました。
この枠で値動きのない定期預金の積立をしておくだけでも、所得税と住民税を合わせておよそ6万円から8万円が節税できます。多額のローンを背負わず、元本も減らさずにこれだけ節税できるのですから、節税目的でワンルームマンションを買う必要が全くありません。
もちろん、こんなお得な情報は新築ワンルームマンションを買わされるセミナーでは教えてくれません。彼らは節税でも保険でも資産形成でも新築ワンルームが一番だと言い張ります。
そもそもワンルームマンションをフルローンで買っても、節税できるのは最初の数年だけです。つまりワンルームマンションは節税に最適というのは嘘なんです。自営業者でもサラリーマンでも医者でもOLでも、節税に最適なのはワンルームマンションではなくiDeCoの方ですよ。
なお、iDeCoの掛金の上限や加入できる年齢は、その後も制度改正が重ねられています。今のあなたの上限額は、iDeCoの公式サイトや勤務先、金融機関で必ず確認してください。
なぜ節税にならないのか|損益通算が効くのは最初の数年だけ
営業が言う節税の仕組みは、こういう説明です。
「毎月の収支が赤字になっても、その赤字は給与所得と損益通算ができます。だから赤字になれば所得税の還付を受けられて節税になります」
損益通算とは、不動産で出た赤字を給料の黒字から差し引いて、払い過ぎた所得税を返してもらう手続きです。制度としては確かに存在します。問題は、その赤字が続かないという点です。
1年目が赤字になるのは当たり前
購入した年は、登記や税金、諸費用で支出が多いので赤字になります。所得税や住民税が還付されるのもこの年です。業者はこの1年目のシミュレーションだけを見せて、さもそれが毎年続くかのように説明します。大事なのは2年目からです。
2年目からは、そう簡単にはいかない
ワンルームマンションを1戸か2戸持っている程度では、使える経費もたかが知れています。経費といっても減価償却費(建物の値下がり分を毎年少しずつ費用として計上する仕組み)と管理費くらいで、所得を赤字にできるだけの金額にはなりません。
しかも、ローン返済のうち利息は経費になりますが、元本の返済分は経費になりません。ここが多くの方が誤解しているところです。購入から数年後にローンの支払額が家賃を逆転して、毎月5,000円の赤字を垂れ流す状態になったとしても、会計上は元本返済分を経費に入れられないので黒字になる場合があります。
この場合、財布からは毎月お金が出ていくのに、確定申告では黒字なので税金の負担が増えます。節税どころか、二重苦の状態です。詳しい経緯は新築投資ワンルームマンションのシミュレーションは嘘ばかりに書いた通りで、私が相談を受けて業者のシミュレーションを実際に見せてもらった時の話です。
減価償却が切れたら、税金はむしろ増える
減価償却費は、決められた年数が過ぎれば計上できなくなります。経費が一気に減るので、税金は逆に増えます。私が見てきた自己破産の事例でも、購入から数年で税の還付が激減し、そこに家賃の下落と空室、修繕積立金の値上げが重なって持ち出しが膨らみました。詳しくはワンルームマンション投資で自己破産する人が後を絶たない理由に書いています。
やってはいけない節税
購入した不動産会社の勧めで、使ってもいない旅費交通費や雑費を計上し、数年後に税務署から指摘されて重加算税を請求されたケースがありました。赤字を無理に作ろうとすると、こうなります。経費の判断は必ず税理士か税務署に確認してください。
年12万円の赤字で還付が20万円なら、儲けは8万円だけ
仮に節税が成立したとして、その中身を計算してください。2,000万円以上の債務を背負って、受ける恩恵は所得税分の還付だけです。
毎月1万円の赤字を垂れ流して年間12万円の損失を出し、年度末に20万円の所得税還付を受けたとします。それでも儲かったのはわずか8万円だけです。2,000万円を超える借金を背負い、35年払い続けて、手元に残るのがこの金額です。
しかも赤字幅は固定ではありません。築年数とともに募集家賃は下がり、管理費や修繕積立金は上がるので、赤字幅は拡大します。2室3室と買ってしまえば、還付額以上の赤字を出すのは目に見えています。この構造は新築ワンルームマンション投資は業者やブローカーだけを儲けさせて投資家は損をするに書きました。
不動産投資は不動産事業です。1棟マンションや1棟アパートの経営で成功している方の中に、赤字でも大丈夫などと考えている人は誰1人としていません。成功する方は事業として最大限の黒字化を目指し、失敗する方は赤字になっても節税できるので大丈夫と、完全に間違った考え方をしています。
そもそも収支表が節税以前に崩れている
私が相談で見せられた典型は、物件価格2,000万円のフルローンで、家賃収入7万円、管理費と修繕積立金が4,000円、ローン返済が7万円、毎月の収支はマイナス4,000円という表でした。ここには35年間家賃が下がらず、管理費と修繕積立金も上がらないという前提が隠れています。
家賃の下落と修繕積立金の増額を織り込んで10年後に書き直すと、家賃収入はおよそ5万9,000円、管理費と修繕積立金はおよそ9,000円、毎月の収支はおよそマイナス2万円です。負担は営業の言う4,000円の5倍で、さらに空室と原状回復費が乗ります。検算の過程は営業の収支表を一行ずつ検算した結果にまとめました。
私が現場で見てきたこと
相談を受けた中に、公務員の方がいました。新築ワンルームを3部屋、合計4,000万円の借金をして買っていました。毎月の持ち出しに耐えかねて売却を考えた時には、3部屋まとめて1,500万円で手放す寸前まで追い詰められ、売っても借金だけが2,500万円ほど残る計算でした。退職金を全額前借りして返済に充てる直前で、なんとか止めることができました。
もうひとつ書いておきます。周りの不動産会社の経営者仲間を見渡しても、付き合い以外で新築区分ワンルームマンションをフルローンで買う人は誰1人としていません。不動産のプロが見向きもしない商品なのです。節税になるほど良い話なら、まずプロが自分で買っています。
今日やること
まだ契約していない方は、次の三つを確認してください。これを聞くだけで、たいていの営業は止まります。正直に答えれば売れなくなるからです。
- 10年後、20年後、30年後の家賃をいくらで計算しているか。新築時と同じ金額なら、その収支表は使えない
- 管理費と修繕積立金をいつ、いくらに上げる計画か。長期修繕計画書を見せられない、ありませんと言われたら買ってはいけない
- 空室率と原状回復費を年間いくらで見込んでいるか。ゼロで計算されているなら、現実を反映していない
節税の話をされたら、1年目ではなく2年目以降の税額を書いた表を出してもらってください。減価償却費が何年で切れるのか、切れた年の税金がいくらになるのかまで書かせるのです。
節税そのものが目的なら、まずiDeCoの自分の上限額を調べることから始めてください。借金をせずに所得から控除でき、値動きのない定期預金でも節税だけは成立します。60歳まで引き出せないという難点はありますが、新築ワンルームマンションを買って25年間保有するよりは圧倒的にマシです。
不動産投資セミナーに出るのは良いですが、聞かされる話がフルローンでの新築(築浅)ワンルームマンション投資だったら、それ以上聞いてもロクなことがないのですぐに帰りましょう。セミナーに行く前の心構えはワンルームマンション投資で失敗しないための大切なマインドセットにまとめています。
注意点
税金の取り扱いは、収入や家族構成、物件の条件で変わります。この記事の金額は一例です。自分の場合はどうなるのかは、必ず税理士か税務署に確認してください。販売会社と提携しているFPや税理士に聞いても、売り手側の答えしか返ってきません。
すでに買ってしまった方へ。売却できるのであれば、損切りをしてでも売ってしまった方がいいかもしれません。少なくとも、これ以上戸数を増やすのだけはやめてください。還付額以上の赤字を抱えた瞬間、節税という言い訳すら成り立たなくなります。
まとめ
ワンルームマンション投資が節税にならない理由を整理します。
- 損益通算で税金が戻るのは、諸費用がかさむ最初の数年だけ
- ローン返済の元本は経費にならず、財布は赤字なのに申告は黒字という状態が起きる
- 減価償却が切れれば経費が減り、税負担はむしろ増える
- 年12万円の赤字で還付20万円でも、儲けは8万円。2,000万円超の借金に見合わない
- 節税だけが目的なら、借金をしないiDeCoで所得税と住民税あわせて6万円から8万円を節税できる
投資はお金を増やすためにやるものです。赤字になっても僅かな税金が還付されるから問題ない、という考え方だけは捨ててください。iDeCoの正しい情報がもっと広まれば、悲惨な目に遭う方が減るのにな、といつも思っています。
副業・投資の判断に迷ったら
私は数千万円を騙された経験と、大阪府知事認可の不動産会社を20年経営してきた立場から、副業と投資の「本物と偽物」を見極める物差しをお伝えしています。
※販売・勧誘・譲渡のお取次は一切行っていません。







