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「毎月たった4,000円の負担で、2,000万円の資産が持てます」
新築ワンルームマンションの営業トークは、たいていこの一言から始まります。
私は不動産会社を経営しています。宅地建物取引業の免許を持っているので、その気になれば私も新築の区分ワンルームマンションを売れます。それでも売りません。買った人が必ず損をするからです。
私はこれまで、100人以上の方を契約の寸前で止めてきました。特別な説得のテクニックはありません。正しい数字を順番に見せるだけで、ほとんどの方が自分で気づいてやめていきます。
この記事では、私の著書『絶対やめとけ!新築区分ワンルームマンション投資』から、いちばん実用的な章を切り出します。業者の収支シミュレーションを、一行ずつ検算する章です。手元に業者の収支表がある方は、横に置いて読んでください。
営業マンが見せる収支表
実際に私が相談を受けたときに見せられたものを、数字を整理して示します。物件価格2,000万円、頭金なしのフルローンです。
| 項目 | 金額(毎月) | 家賃収入 | 70,000円 | 管理費・修繕積立金 | ▲4,000円 | ローン返済 | ▲70,000円 | 毎月の収支 | ▲4,000円 |
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営業マンの説明はこうです。頭金なしで2,000万円の不動産が持てて、負担は毎月わずか4,000円。赤字は給与所得と損益通算できるので所得税の還付が受けられ、団体信用生命保険に入るので万が一のときは借金がゼロになる。つまり毎月4,000円の保険料で、2,000万円の死亡保険に入っているのと同じです、と。
よくできた説明です。実際、この説明で多くの方が契約しています。では、この収支表のどこが嘘なのか。順番に見ていきます。
嘘その一|35年間、家賃が下がらない前提
収支表を見ると、1年目の家賃も35年目の家賃も、同じ7万円になっています。これはあり得ません。
民間の調査機関の分析によれば、18平方メートルから30平方メートル未満のシングルタイプの住戸では、築3年から10年の期間に、年率およそ1.7%のペースで賃料が下落しています。新築ワンルームが最初に通過するこの時期こそ、下落率がいちばん大きい局面なのです。
7万円の家賃が年1.7%で下がると、10年後にはおよそ5万9,000円。毎月1万円以上、収入が減る計算です。業者の収支表には、この1万円がどこにも書かれていません。
嘘その二|管理費と修繕積立金が上がらない前提
管理費と修繕積立金の合計4,000円も、35年間ずっと同じ金額で計算されています。これもあり得ません。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査によれば、令和2年以降に完成したマンションでは、修繕積立金を段階的に増額していく方式の割合が85.5%に達しています。新築の8割以上が「あとから上げる」方式だということです。
では、どれくらい上がるのか。国土交通省のパンフレットには、新築マンションを調査したところ、段階増額方式の場合は30年の計画期間で初期額のおよそ7,000円が最終額でおよそ2万8,000円、約4倍に増額しているという記述があります。
なぜこんな設定になっているのか。理由は簡単で、新築時の月々の負担を軽く見せるためです。最初から適正な金額を積み立てる前提にすると、収支表が厳しい数字になって売りにくいからです。
嘘その三|空室と原状回復費が入っていない
収支表は、家賃が毎月きちんと入ってくる前提になっています。現実には、入居者は退去します。ワンルームの入居者は学生や単身の社会人が中心で入れ替わりが早く、1年から2年で退去することも珍しくありません。
1か月空けば、その年の収支は7万円悪化します。退去のたびに原状回復費がかかり、エアコンや給湯器にも寿命があって10年から15年で交換が必要です。これらは、収支表にはほとんど書かれていません。
10年後の収支表を書き直すと、負担は5倍になる
三つの嘘を修正して、収支表を10年後の数字に書き直します。
| 項目 | 業者の収支表 | 10年後の現実 | 家賃収入 | 70,000円 | 約59,000円 | 管理費・修繕積立金 | 4,000円 | 約9,000円 | ローン返済 | 70,000円 | 70,000円 | 毎月の収支 | ▲4,000円 | 約▲20,000円 |
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毎月マイナス2万円。年間で24万円の持ち出しです。ここに空室と原状回復費が別に乗るので、実際の負担はさらに重くなります。営業マンの言う「毎月たった4,000円」は、購入直後の、それも最良の条件でのスナップショットにすぎません。

そして、いちばん恐ろしいのはここからです。この収支の悪化は、あなたの努力ではどうにもなりません。家賃は入居者が決まらなければ下げるしかなく、修繕積立金は管理組合の決議で決まり、ローンの返済額は契約で固定されています。
物件選びが下手だったのではありません。景気が悪かったのでもありません。最初から、そうなるように設計されているのです。
価格は2割下がるのに、賃料は6%しか下がらない
価格の面でも、同じ構造が確認できます。日本不動産研究所などが公表する住宅マーケットインデックスの2024年下期データでは、東京23区の40平方メートル未満の帯で、新築の価格が1平方メートルあたり158.5万円、築10年の中古が120.8万円。差はおよそ23.8%です。
一方の賃料は、新築が1平方メートルあたり月4,042円、築10年が3,800円で、差はおよそ6%にとどまります。
部屋が生み出す収益は6%しか落ちていないのに、価格は24%近く落ちる。この差の正体は、新築時の価格に上乗せされていた広告費や販売報酬です。そしてその分は、次の買い手が払ってくれません。
利回りの表示にも同じ仕掛けがあります。「利回り5.5%」という数字は、2,000万円の物件で年間家賃収入110万円という表面利回りで、経費を一切引いていません。私の経験では、表面利回り5.5%の物件なら実質利回りは4%を切り、築年数が進んで家賃が下がれば2%を下回ることも珍しくありません。借入金利が2%で実質利回りが2%なら、その時点で収益はゼロです。
手遅れになると、どうなるか
私が相談を受けた中に、こういう方がいました。公務員の方で、新築ワンルームを3部屋、合計4,000万円の借金をして買っていました。毎月の持ち出しに耐えかねて売却を考え始め、3部屋まとめて1,500万円で手放す寸前まで追い詰められていました。売っても、借金だけが2,500万円ほど残る計算です。
退職金を全額前借りして返済に充てる、その直前でなんとか止めることができました。あと数日遅ければ、その方の人生設計は完全に壊れていたはずです。
収支表を受け取ったら、この三つを確認する
ひとつめ。10年後、20年後、30年後の家賃をいくらで計算しているか。新築時と同じ金額なら、その収支表は使えません。
ふたつめ。管理費と修繕積立金を、いつ、いくらに上げる計画になっているか。これは長期修繕計画書を見れば分かります。見せられない、ありませんと言われたら、その物件は買ってはいけません。
みっつめ。空室率と原状回復費を、年間いくらで見込んでいるか。ゼロで計算されているなら、その収支表は現実を反映していません。
この三つを聞くだけで、たいていの営業は止まります。正直に答えれば、売れなくなるからです。

本書『絶対やめとけ!新築区分ワンルームマンション投資』では、この収支の検算に加えて、一戸売れると誰にいくら入るのかというお金の流れ、販売会社が狙う人の条件、「節税になります」「年金代わりになります」という決まり文句の解体、そしてもう買ってしまった方が取るべき手順まで、売る側の内情を知る立場から書きました。営業の電話が鳴る前に、届いてほしい一冊です。







