「ワンルームマンションは生命保険代わりになりますよ」と言われ、この営業トークが本当なのかどうかを調べに来られた方が多いと思います。
私は大阪府知事認可の不動産会社を20年経営し、自分でも関西圏の中古ワンルームマンションを所有してきました。正直に言うと、この記事のもとになった2016年3月の投稿で、私は「中古ワンルームマンションは生命保険代わりとしてお勧め」と書いています。
今の私は、その結論を撤回しています。ローンで買う中古もアウト、生命保険代わりに使うくらいなら掛け捨ての生命保険に入るほうがマシ、というのが現在の答えです。当時の記述はそのまま残したうえで、なぜ同じ人間が正反対のことを言うようになったのかを書きます。
結論|団信は事実、でも「生命保険代わり」は成立しない
最初に結論をまとめます。
- 借入で買えば団体信用生命保険(団信)に加入するので、返済期間中に本人が亡くなればローンが消えて相続人に物件が残る。ここまでは事実
- ただしそれは「毎月赤字の物件を、亡くなるまで持ち続けられたら」という条件付きの話
- 保障額はローン残債と同じなので返済が進むほど減り、完済すれば団信も終わる。老後にいちばん保障が欲しい時期には、もう保険は残っていない
- だから「保険代わり」という理由だけでワンルームマンションを買うのは合理的ではない。掛け捨ての生命保険のほうが圧倒的に効率的です
営業マンが嘘をついているというより、事実の一部だけを切り取って説明していると考えてください。団信が付くのは本当。それが保険の代わりになるかは別の話です。
2016年に私が「お勧め」と書いた時の中身(当時の記事)
ここからは、2016年当時に私が書いた内容をそのまま残します。
私は当時、関西圏を中心とした中古の投資用ワンルームマンションを数戸所有していました。大半は現金購入で抵当は付いていませんが、中には全額銀行からのフルローンで購入したものもあり、頭金0で諸経費分しか出していないのに毎月5,000円から10,000円程度の収入を生んでくれていました。
投下した資金は諸経費の50万円に対して、年間のネット家賃収入は7万円ほど。年間の自己資本利益率は15%程になります。これほどまでに低金利の時代ですので、借りられる所からは借りてレバレッジをかけ、自己資金に対して年間15%以上で運用するのは賢い投資法だと思っていました。
キャッシュフローや自己資本利益率も魅力ですが、私はそれよりも生命保険代わりとしての中古投資ワンルームマンションに魅力を感じていました。借入で購入すれば団体信用生命保険に加入します。返済期間中に本人が亡くなった場合は借金がチャラになり、担保無しの綺麗な状態で相続人に引き渡される。万が一の時は相続人が売却してもいいですし、毎月安定した賃料収入を得ることもできます。
つまり全額借入で購入して毎月数千円のプラス収入を得られるなら、最初の数年は保険料を払うどころか保険料を貰いながら死亡保険に加入しているのと同じことになる。もし毎月5,000円の赤字になっても、保険料を払っていると思えば安いもの。確定申告次第では節税もできる。注意点は新築ではなく中古にすること。新築は賃料の値下がり幅が大きく最初に聞いたキャッシュフローがすぐ狂いますが、賃料が安定している築10年前後の中古ならそのリスクは低い。当時の私はそう書きました。
なぜ私は撤回したのか|前提が3つとも崩れた
当時の私の計算は3つの前提の上に成り立っていました。そのすべてが崩れたので、結論も変わりました。
崩れた前提1|安く買えたこと
2016年の私の数字は「諸経費50万円で買えた中古」の話です。物件を安く仕込めたから、月数千円のプラスが出ていました。ところが2019年の時点で、業者が中古として売る築5年から10年の物件は大阪でも売買価格1,500万円以上。現在、投資用ワンルームの販売価格はおおむね2,000万円から4,000万円帯が中心です。同じ「中古ワンルーム」という言葉でも中身がまったく違うのです。営業マンが持ってくる価格帯で買えば、当時計算した自己資本利益率15%はどこにも出てきません。
崩れた前提2|低金利だったこと
当時の私は「これほどまでに低金利の時代を生きている」と書きました。借入コストが極端に低いから、レバレッジをかける意味があったわけです。今は不動産投資ローンの金利が2%前後。一方で新築ワンルームの表面利回りは3%から4%程度、管理費や修繕積立金、固定資産税を引いた実質利回りは0%から1%が実情です。実質利回りより金利が高くなった瞬間、その物件は買った時点で毎月赤字が確定します。低金利という前提が消えれば、「保険料を貰いながら保険に入る」という私の理屈も消えます。
崩れた前提3|家賃と経費が安定すること
3つ目は私自身が当時から一部書いていたことです。マンションは経年とともに賃料が下がり、管理費や修繕積立金は上がります。10年で新築時から15%から20%の家賃下落は珍しくありません。ところが業者のシミュレーションは収入が新築時の家賃のまま、支出も新築時の管理費と修繕積立金のまま。これは100%間違いです。表面利回り5.5%と言われた物件でも、諸経費を加味すれば4%以下、将来的には2%以下になる可能性が大いにあります。詳しくはワンルームマンション投資で失敗しないための大切なマインドセットに書きました。
「保険代わり」を掛け捨て保険と並べて考える
ここが検索して来られた方にいちばん考えてほしいところです。
保険としてワンルームマンションを見た場合、団信が本当に効くのは購入直後に亡くなった場合だけです。この一点だけは、確かにワンルームマンションのほうが勝っています。しかし普通に考えて、その状況にはなりません。ほとんどの人は生き続け、その間ずっと赤字を補填し、売ろうとしても残債を割る価格しか付かない現実に直面します。そのために毎月赤字の物件を持ち続けるのは、保険の入り方として合理的ではありません。同じお金を掛け捨ての死亡保険に払うほうが、保障額も自分で決められますし、いつでもやめられます。
「生命保険代わり」と言われたら思い出してほしいこと
団信の保障はローン残債と同額で、完済すればゼロになります。保障がいちばん小さくなる老後まで、赤字物件だけが手元に残る設計です。「保険代わり」というより「保険が先に切れるローン」だと考えてください。
現場で見てきたこと|中古でもフルローンは同じ結末
2019年、私は「新築ではなく中古はどうなのか」という相談を数多く受け、中古でもフルローンでのワンルームマンションは絶対に買わないことという結論を出しました。現金では買えない価格帯なので業者はフルローンを提案し、金融機関もそこに満額近い融資を付けてくる。購入者だけが損をする構図は新築でも中古でも同じです。1部屋売れば数百万円の報酬になるから、手当たり次第に売っているだけです。
その先で何が起きるかはワンルームマンション投資で自己破産する人が後を絶たない理由にまとめました。3戸で月10万円の赤字を抱え自己破産した30代会社員、節税目的で5戸買い借入総額1億7,000万円になった40代の医師。入口はどちらも「節税」「年金」「保険代わり」でした。
新築については投資用新築ワンルームマンションは絶対に買ってはいけないで価格構造を分解しました。物件価格の25%から40%が業者の利益と諸経費です。
今日やること|「保険代わり」を数字で検算する3手順
今まさに勧誘を受けている方は、このまま営業マンに返してください。
手順1|団信の保障額を年ごとに出してもらう
保障額はローン残債と同額なので、返済表をもらえばそのまま出ます。完済年にゼロになることを自分の目で確認してください。
手順2|同じ保障額の掛け捨て生命保険と比べる
同じ死亡保障を掛け捨ての生命保険で用意すると毎月いくらかかるのか。見積もりを取り、ワンルームマンションの毎月の持ち出しと並べてください。この比較を嫌がる営業マンなら、そこで終わりです。
手順3|収入が下がり支出が上がる収支表を要求する
新築時の数字が20年30年続く前提の資料は受け取らないでください。家賃下落、空室、原状回復費、修繕積立金の値上げまで入れた収支を出してもらい、それでも保険料より安いのかを見ます。この3つを出せる業者はほとんどいません。出せないという事実が答えです。
注意点|不動産投資そのものを否定しているわけではない
誤解のないように書きます。私は不動産投資を否定していません。否定しているのは「営業電話や紹介で来る、フルローン前提のワンルームマンションを、保険や節税を理由に買うこと」です。安く仕込めて金利より実質利回りが上なら話は変わりますが、本当に条件の良い物件が初対面のサラリーマンに電話一本で回ってくることはありません。
節税の話は必ず税理士か税務署に確認してください。当時書いた「確定申告次第では節税もできる」も、減価償却が切れれば逆に税負担が増える話とセットです。利回りや将来価格はあくまで見込みで、本記事は一般的な情報提供です。最終的な契約判断は弁護士や税理士など独立した専門家に相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。
まとめ|10年前の自分の記事を、私はこう訂正する
「ワンルームマンションは生命保険代わりになる」は本当か。答えをまとめます。
- 団信でローンが消えるのは事実。ただし保障は残債と同額で、完済すれば消える
- 2016年に私が「お勧め」と書けたのは、安く仕込めて金利が極端に低かったから
- 価格が上がり金利が上がった今、その計算は成り立たない
- 保険目的なら掛け捨ての生命保険のほうが効率的。新築でも中古でも、ローンで買うワンルームマンションを保険や節税を理由に選ばない
過去の記述を消さずに残すのは、投資の前提は変わるということを、自分の判断の変化ごと見てもらいたいからです。私は数千万円を騙された経験があります。あの時に足りなかったのは、勇気でも運でもなく、前提を疑う手間でした。営業マンの言葉ではなく、数字と条件で判断してください。
副業・投資の判断に迷ったら
私は数千万円を騙された経験と、大阪府知事認可の不動産会社を20年経営してきた立場から、副業と投資の「本物と偽物」を見極める物差しをお伝えしています。
※販売・勧誘・譲渡のお取次は一切行っていません。







