「毎月たった4,000円の負担で、2,000万円の資産が持てます」
新築ワンルームマンションの営業トークは、たいていこの一言から始まります。業者からもらった収支シミュレーション(何年後にいくら儲かるかを並べた収支表)が手元にある方は、横に置いて読んでください。
私は大阪府知事の認可を受けた不動産会社を20年経営しています。宅地建物取引業の免許を持っているので、その気になれば私も新築の区分ワンルームマンションを売れます。それでも売りません。価格と家賃の構造上、買った人が損をするようにできているからです。
これまで100人以上の方を契約の寸前で止めてきました。業者の収支表を一行ずつ検算して正しい数字を見せるだけで、ほとんどの方が自分で気づいてやめていきます。この記事は、私が2016年から書いてきた「嘘のシミュレーション」の話をまとめ、最新の公的データで数字を入れ替えたものです。
営業マンが見せる収支表と、決まり文句
私が実際に見せられたものを、数字を整理して示します。物件価格2,000万円、頭金なしのフルローン(自己資金ゼロで全額を銀行から借りる形)です。
| 項目 | 金額(毎月) |
|---|---|
| 家賃収入 | 70,000円 |
| 管理費・修繕積立金 | ▲4,000円 |
| ローン返済 | ▲70,000円 |
| 毎月の収支 | ▲4,000円 |
営業マンの説明はこうです。
- 頭金なしで2,000万円の不動産が持てて、負担は毎月わずか4,000円
- 赤字は給与所得と損益通算(赤字と黒字を相殺して税金を計算し直す仕組み)できるので所得税の還付が受けられる
- 団体信用生命保険に入るので、万が一のときは借金がゼロになる。つまり毎月4,000円の保険料で2,000万円の死亡保険に入っているのと同じ
よくできた説明です。金利も1%台前半を提示され、自己資金なしで買えるので「私も投資家デビューかしら」と思ってしまう。私が2017年にこの三点セットを取り上げたときから中身は変わっていません。では、この収支表のどこが嘘なのか。
嘘その一|35年間、家賃が下がらない前提
収支表を見ると、1年目の家賃も35年目の家賃も同じ7万円です。あり得ません。
ローンは元利均等返済なので毎月の返済額は変わりませんが、家賃は年々下がります。それでも販売業者は、20年後も30年後も新築時と同じ賃料が取れると言い張ります。2016年に読者の方から見せていただいた収支表も、最初の数年こそ家賃がローン返済を上回るものの、6、7年後には逆転して赤字を垂れ流す形でした。業者はそこを説明せず、30年後にローンが終われば新築時の賃料がまるごと手に入るかのように話していました。お客様を馬鹿にしているとしか思えません。
では実際にどれくらい下がるのか。民間の調査機関の分析によれば、18平方メートルから30平方メートル未満のシングルタイプの住戸では、築3年から10年の期間に年率およそ1.7%のペースで賃料が下落しています。新築ワンルームが最初に通過するこの時期こそ、下落率がいちばん大きい局面です。
7万円の家賃が年1.7%で下がると、10年後にはおよそ5万9,000円。毎月1万円以上、収入が減る計算です。業者の収支表には、この1万円がどこにも書かれていません。
嘘その二|管理費と修繕積立金が上がらない前提
管理費と修繕積立金の合計4,000円も、35年間ずっと同じ金額で計算されています。新築のうちは傷む箇所が少ないので安く設定されますが、経年とともに修繕箇所は増え、10年に1度は大規模修繕で多額のお金が必要になります。最初の金額では賄えず、途中で必ず値上げされます。
これは私の推測ではありません。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によれば、令和2年以降に完成したマンションでは、修繕積立金を段階的に増額する方式の割合が85.5%。新築の8割以上が「あとから上げる」方式だということです。
どれくらい上がるのか。国土交通省のパンフレットには、新築マンションでは段階増額方式の場合、30年の計画期間で初期額のおよそ7,000円が最終額でおよそ2万8,000円、約4倍に増額しているという記述があります。私が知っている物件でも、当初は管理費と修繕積立金を合わせて月7,000円程度だったものが、築13年で月2万円まで増えていました。
なぜこんな設定にするのか。新築時の月々の負担を軽く見せるためです。なお戸数の少ないマンションは一戸あたりの負担が重く、値上げが早く幅も大きくなります。家賃は下がるのに管理費と修繕積立金は上がる。この構造が収支を確実に圧迫しますが、販売の場面でほとんど説明されません。
嘘その三|空室・原状回復・設備交換・固定資産税がゼロ
収支表は、家賃が毎月きちんと入ってくる前提です。ワンルームの入居者は学生や単身の社会人が中心で入れ替わりが早く、1年から2年で退去することも珍しくありません。新築時の入居者が30年住み続ける可能性はゼロではありませんが、常識で考えてまず起きません。
1か月空けば、その年の収支は7万円悪化します。退去のたびに原状回復のリフォーム費用がかかり、負担するのはオーナーです。次の募集では広告料の名目で不動産会社へ謝礼を払い、エアコンや給湯器も10年から15年で交換が必要。固定資産税も毎年出ていきます。これらは業者の収支表にほとんど書かれていません。
「家賃保証があるから空室は関係ない」も要注意
家賃保証の契約書には、必ずと言っていいほど「数年ごとの見直し」の条文が入っています。保証される家賃は途中で下げられる前提だということです。しかも退去時のリフォーム費用はオーナー負担のまま。その条文を自分の目で読んでから判断してください。
嘘その四|「節税になります」は2年目から逆転する
不動産所得と給与所得、事業所得は損益通算ができます。だから不動産が赤字なら、払った所得税の一部が戻ってきます。ここまでは事実です。
問題は、業者が1年目の数字だけを見せて毎年続くかのように説明することです。購入した年は登記費用をはじめ諸経費がかさむので赤字になって当たり前で、大事なのは2年目からです。経費にできるのは減価償却費(建物の価値の目減りを毎年経費にする仕組み)と管理費くらいで、所得を赤字にし続けられる金額ではありません。
もっと厄介なのは会計と現金のズレです。ローン返済のうち利子は経費になりますが、元本は経費になりません。だから毎月5,000円の赤字を垂れ流していても、確定申告の上では黒字になることがあります。財布からはお金が出ていくのに税金の負担は増える。二重苦です。
ここで危ない知恵を授ける業者もいます。購入した不動産会社に勧められるまま、使ってもいない旅費交通費や雑費を計上し、数年後に税務署から指摘されて重加算税を請求されたケースを私は見ています。節税どころか罰金です。税務の判断は必ず税理士または税務署に確認してください。節税が目的なら、節税するならiDeCoで十分。ワンルームマンション投資は節税にならないに書いたとおり、もっと素直な方法があります。
10年後の収支表に書き直すと、負担は5倍になる
家賃の下落と、管理費・修繕積立金の増額を反映して、収支表を10年後の数字に書き直します。
| 項目 | 業者の収支表 | 10年後の現実 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 70,000円 | 約59,000円 |
| 管理費・修繕積立金 | 4,000円 | 約9,000円 |
| ローン返済 | 70,000円 | 70,000円 |
| 毎月の収支 | ▲4,000円 | 約▲20,000円 |

毎月マイナス2万円、年間24万円の持ち出しです。ここに空室と原状回復費が別に乗ります。営業マンの言う「毎月たった4,000円」は、購入直後の、それも最良の条件での一瞬の数字にすぎません。
同じ試算を私が2017年に書いたときは、家賃5万8,000円、管理費・修繕積立金9,000円で毎月マイナス2万1,000円、年間25万円の赤字でした。9年経って公的データで組み直しても着地はほとんど同じです。ここに1か月の空室や15万円のリフォーム費用が乗れば、もう目も当てられません。
いちばん恐ろしいのはここからです。この収支の悪化は、あなたの努力ではどうにもなりません。家賃は入居者が決まらなければ下げるしかなく、修繕積立金は管理組合の決議で決まり、返済額は契約で固定されています。物件選びが下手だったのでも、景気が悪かったのでもありません。最初から、そうなるように設計されているのです。
価格は2割下がるのに、賃料は6%しか下がらない
価格の面でも同じ構造が確認できます。日本不動産研究所などが公表する住宅マーケットインデックスの2024年下期データでは、東京23区の40平方メートル未満の帯で、新築の価格が1平方メートルあたり158.5万円、築10年の中古が120.8万円。差はおよそ23.8%。一方の賃料は新築が1平方メートルあたり月4,042円、築10年が3,800円で、差はおよそ6%にとどまります。
部屋が生み出す収益は6%しか落ちていないのに、価格は24%近く落ちる。この差の正体は、新築時の価格に上乗せされていた広告費や販売報酬です。その分は次の買い手が払ってくれません。2016年に相談を受けた案件でも、建築コストの上昇分がそのまま価格に乗せられていて、プロの目から見て異常な高さでした。当時の関西圏のワンルームなら、築10年で物件価格は約30%から40%落ち、賃料も30%近く下がるのが実際のところです。下落幅は地域と時期で変わるので、検討中の物件は自分で調べてください(手順は後述します)
利回りの表示にも同じ仕掛けがあります。「利回り5.5%」は2,000万円の物件で年間家賃収入110万円という表面利回りで、経費を一切引いていません。私の経験では表面利回り5.5%なら実質利回りは4%を切り、家賃が下がれば2%を下回ることも珍しくありません。借入金利が2%で実質利回りが2%なら、その時点で収益はゼロです。
だから金利は死活問題です。金利5%以上のノンバンクから借りてまで投資用ワンルームを買う方も見かけますが、狂気の沙汰です。私自身は中古ワンルームを買っていますが、借入金利はどんなに高くても3%未満。1%台で貸してくれる金融機関もあり、条件が違うので何行かを使い分けています。
収支表を受け取ったら、この三つを確認する
ひとつめ。10年後、20年後、30年後の家賃をいくらで計算しているか。新築時と同じ金額なら、その収支表は使えません。
ふたつめ。管理費と修繕積立金を、いつ、いくらに上げる計画になっているか。長期修繕計画書を見れば分かります。見せられない、ありませんと言われたら、その物件は買ってはいけません。
みっつめ。空室率と原状回復費を、年間いくらで見込んでいるか。ゼロで計算されているなら、その収支表は現実を反映していません。
この三つを聞くだけで、たいていの営業は止まります。正直に答えれば売れなくなるからです。
業者はメリットしか説明しませんから、買う前の裏取りは自分でやるしかありません。新築・築浅を検討している方にいつもお願いしているのは次の作業です。
- 検討中の物件の近隣で、同じようなワンルームマンションを探す
- その物件が築数年でいくらの売買流通価格になっているかを調べる
- 賃料が新築時からいくらまで下がっているかを調べる
これを何棟か並べれば、収支表が現実と何割ずれているかが自分の目で分かります。土地勘がない方には、私が分かる範囲で調べて報告してきました。売るときの話も同じで、業者から言われた売却相場と実際の成約事例がかけ離れているケースは本当に多いです(実例はワンルームマンションの売却相談。業者から言われた売却相場と実際の成約事例が余りにもかけ離れすぎ)
手遅れになると、どうなるか
私が相談を受けた中に、こういう方がいました。公務員の方で、新築ワンルームを3部屋、合計4,000万円の借金をして買っていました。毎月の持ち出しに耐えかねて売却を考え始め、3部屋まとめて1,500万円で手放す寸前まで追い詰められていました。売っても、借金だけが2,500万円ほど残る計算です。
退職金を全額前借りして返済に充てる、その直前でなんとか止めました。あと数日遅ければ、その方の人生設計は完全に壊れていたはずです。
業者の口車に乗って2部屋、3部屋と買った人は、債務整理が視野に入ってきます。1部屋なら赤字も知れていますが、部屋数が増えれば赤字も倍々で増えるからです。買ったあとに何が起きるかはワンルームマンション投資で自己破産する人が後を絶たない理由に、買った瞬間に名簿が回り始める話はワンルームを買うと情弱名簿に載るにまとめています。
それでも検討するなら、条件をはっきりさせる
私は新築ワンルームのすべてが問答無用でダメだと言っているのではありません。ただし成り立つ条件はかなり限られます。投資や節税が目的なら成り立ちません。収支は最初からマイナスで、時間とともに悪化する設計だからです。
生命保険の代わりと割り切るなら話は別です。毎月1万円の赤字を保険料だと思って払い続け、もしものときに団体信用生命保険で債務が消えて家族に物件が残る。その考え方はあり得ないとは言いません。ただし1戸が限度で、2戸、3戸と増やすのは非常に危険です。そして新築は赤字の幅が大きいので、その目的なら普通に生命保険に入ったほうがましだというのが私の結論です。私自身はもっと条件の良い商品を知っているので、この目的でも買いません。
私が実際に買っているのは中古です。広告費や販売報酬が価格から落ちきったあと、築10年ほどで半値近くまで下がった物件を買って安定したプラスの収支を狙うほうが、はるかに賢明だと思います。ただし中古ならどれでもいいわけではありません。フルローンで中古ワンルームを買う危険については危険なのは新築だけではない!ローンを組んで中古ワンルームマンション投資もアウトで書いたとおりです。
まとめ|収支表は、売るために作られている
新築ワンルームの収支シミュレーションが嘘になるのは、担当者が悪人だからではありません。家賃が下がり、管理費と修繕積立金が上がり、空室と修繕費がかかるという当たり前の現実を書き込むと、その紙は売れる紙でなくなる。だから書かれていないのです。
将来の家賃の計算根拠を聞き、長期修繕計画書を見せてもらい、空室率と原状回復費の見込みを聞く。判断の材料を、営業マンではなくあなたが握ってください。
売る側の内情を含む全体像は、著書『絶対やめとけ!新築区分ワンルームマンション投資』にまとめました。営業の電話が鳴る前に、この記事が届いていることを願っています。
※本記事の数字は公表資料と私の実務経験にもとづく試算であり、将来の収支や利回りを保証するものではありません。税務の取り扱いは必ず税理士または税務署にご確認ください。
副業・投資の判断に迷ったら
私は数千万円を騙された経験と、大阪府知事認可の不動産会社を20年経営してきた立場から、副業と投資の「本物と偽物」を見極める物差しをお伝えしています。
※販売・勧誘・譲渡のお取次は一切行っていません。







